はじめてのお仕置き
主さんの前に立って、首輪をかけられるところまではいつもと同じでした。
「ご挨拶は?」
ご挨拶は苦手です。
改まって、よろしくお願い致します、と土下座するのは今更照れくさ気持ちのほうが強いのです。
無造作に膝を折れば、違うと指摘され、正座の仕方から始まります。
普段は何をしても笑顔を崩さない主さんは、今、私の目の前では冷たい目をした飼い主さんでいらっしゃいます。
手を着いて、何とかご挨拶を述べるもののそれはとてもたどたどしく、その時はまだ、理性の方が勝っていました。
何度かのやり直しののち立つように促されると、主さんはロープを手にされました。
ご挨拶だけでは終わらないのだな…、前回お仕置きすると仰っていたのは冗談ではなかったということのようです。
いつものように変わらない手つきで、あっという間に主さんは私を縛り上げてしまわれました。
このあと鞭を頂くのか、それともパドルか…。
一度はお願いしてお仕置きをして頂いたことはありますが、主さんの口から言われたお仕置きはこれが初めてです。
もっと興奮にぞくぞくするような、もっと恐ろしいようなものなのかと思っていましたが、理性もしっかりしていたせいか案外冷静に縛られることを感じていました。
更にリードをつけられて。
江戸時代の罪人よろしく後手に縛られているというのに、不自由なこの状況がやはり私は好きなのです。
久しぶり感じるリードの重みは飼い犬だからこその証。
四つん這いになって、背中に足の裏があたる感触を感じました。
自ら低い姿勢になり土下座の体勢になって頭を踏み付けて頂きます。
こんな扱いをされるほうがいい…
跪いて、踏み付けられて、主さんの物として扱われるのがいい…
頭の中が少しずつフワフワとし始めます。
眼の力が段々と抜けて、日常の勝気な自分を手放していくのです。
今度は膝立ちになって、乳首を責められながら浴びせられる主さんの言葉に、一気にスイッチが入ったのが自分でもわかりました。
お仕置きされないと愛されていると感じられないんだよね…
いやらしい身体だ…
りんは〇〇さんの奴隷ですと言ってみ…
恥ずかしいのに、主さんの奴隷だと口にすることが気持ち良くて。
普段なら邪魔するプライドは、この時ひとかけらも残ってはいませんでした。
突如、あふれ出す涙
嬉しさのあまりだとか、何か思いが極まってだとか、そういった涙でないことは分かりました。
ただ、突然流れたその涙が何なのかは私自身よく分かっていません。
欲しかったものを貰えた安堵というのも少し違うのかもしれません。
いつも見ているはずの主さん、いつも感じているはずの体温、それだけで安心できていたはずですが、いつもの調教の時間とも違うお仕置きというまた特別な時間、私が唯一の飼い主として受け入れた主さんと私を奴隷として飼うことを決めた主さん、いつも以上に飼い主という絶対的な存在を感じた瞬間でもありました。
心がふと緩んだ、そんな感覚に近いような気がします。
膝ががくがくと震え始め一人では体を支えられなくなり主さんの肩に頭を預けます。
段々と体の芯が熱くなってくるのがわかり、すぐにでも主さん自身で貫いて欲しく堪らなくなりました。
感じすぎるくらい感じる身体、そこからパドルでお尻を打って頂きました。
鞭ほどの鋭い痛みではありません。
だから、痛くて気持ち良い…。
主さんの飼い犬だから下さるお仕置き、こんなふうに主さんに向き合って頂けるなんて。
お仕置きを頂いたあとは嬉しさしかありません…。